もんじゅの代わりの仏高速炉「アストリッド計画」が潰え、いよいよつながっていると言い張る材料がなくなった。
2019年5月号 LIFE [技術の裏付けがない出鱈目計画]
廃炉が決まった福井県にある高速増殖炉もんじゅ
Photo:Jiji Press
技術が確立せず、開発計画から50年以上経ってもまったく繋がる気配がないのに、計画更新のたびに、すぐにでも繋がるかのように発表されてきた核燃料サイクルの「輪」。そんなほころびだらけの核燃料サイクル政策に決定的なダメ出しをした昨年11月末の日本経済新聞の報道がかき消されたのをご存じだろうか。
2018年11月28日付の「日本がフランスと進めている次世代原子炉開発について、仏政府が2020年以降、計画を凍結する方針を日本側に伝えたことがわかった。仏政府は19年で研究を中断、20年以降は予算を付けない意向という」という内容の記事のことだ。ここで言う次世代原子炉とは、日本が高速増殖炉もんじゅの代わりに核燃料サイクルの要に位置付けた、フランスと日本が共同研究することになっていた高速炉実証炉「アストリッド」のことだ。
記事が出ると奇妙な反応が起きた。まず、菅義偉官房長官が直ちに、「聞いていない」とあいまいな否定をした。すると続いて、12月1日に東京新聞が「経産省が小型原発の開発に乗り出した」という独自の記事を掲載。さらにその翌日には、読売新聞が「経産省が原子力ベンチャー育成 次世代炉開発へ」という、これまた独自の報道を展開した。
経産省OBはこう内情を話す。「アストリッド計画については、フランスから昨年6月に縮小を伝えられた時点で、実は凍結の話もわかっていた。公表をできるだけ先延ばしにして、日本が改めて高速炉開発をするという内容の工程表をつくるしかないということになった。どうせどちらも画に描いた餅なのだから、同じことでしょう」「その後続いた報道は、アストリッドの穴埋めと目くらましのためのリークですよ。サイクルは原発を進める大義名分で、経産省が巨大な原発利権を維持するために絶対に必要な看板だからこうするのです」
要するに、日経のアストリッド計画凍結報道でちぎれた核燃料サイクルの輪を、政府と日経以外の報道機関が共同作業で即座に補修したのだ。
そこからは政府の予定通りのいつもの取り繕いが展開された。
原子力関係閣僚会議は18年12月21日、2016年に廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」の後継炉開発について、実用化の目標時期を21世紀後半とする工程表を決定。これまで50年以上かけてできなかったものをまた一から作り始めるのに、ここから50年ぐらいで完成できるという、夢のまた夢のような話を平然と言ってのけた。
続いて経済産業省は今年2月6日に発表したリリースで、「日本では1963年頃から高速炉の本格的な設計研究がスタート。1977年には実験炉常陽、1994年には原型炉もんじゅが臨界を達成。その後、高速炉に関する技術研究が長年続けられ、さまざまな知見が蓄積されてきました」「これまで培った経験や技術・知見を活かし、高速炉の将来の実用化を目指し、開発を進めていく」と説明。夢のような工程表を夢でないかのように言いくるめた。
原発を保有する九つの電力会社は、核燃料サイクルの輪が切れたことになると、新たな核燃料の原料になるとされてきた使用済み核燃料が単なる「核のゴミ」になってしまうので、資産として計上している使用済み核燃料の価額を減損処理し、損失を計上しなくてはならなくなる。核燃料サイクル基地があることから大量の使用済み燃料を受け入れてもらっている青森県から、使用済み核燃料をそれぞれ持ち帰るよう迫られる恐れもあるが、もとよりどの電力会社も燃料置き場は満杯になる。もし実行されれば原子力による発電はできなくなる。
政府としても、核燃料サイクルの輪が切れることは余剰プルトニウムを減らす方策が失われることを意味するので、国際社会から核兵器を開発するのではないかと疑いの目を向けられる状態になる。
だから何が起きようとも核燃料サイクルの輪は繋がっているかのような説明を繰り返すのだが、さすがに今回は閣僚会議の工程表も経産省のリリースも、よくよく読むと、ごまかし切れないほころびの箇所がいくつも見られる。
まず、関係閣僚会議が出した今回の工程表は、当面の5年間程度を、民間の競争を促しメーカーからの提案で様々な技術のアイデアを試す期間と設定。その後、もんじゅで採用したナトリウム冷却炉以外のタイプの炉の開発を進め、2024年以降に採用する技術を絞り込み、あらためて工程を検討するとしている。
その上で、もんじゅ後継の実証炉の運転見込みは「今世紀半ばごろ」、実用化は「21世紀後半のいずれかのタイミングとなる可能性がある」としている。
高速増殖炉の実用炉の運転見込み年については、アニメ「鉄腕アトム」の放映直後につくられた「1967年原子力長期計画」では「1990年ごろまでに」と書かれていた。その後も、82年長計では「2010年ごろ」、94年長計では「2030年ごろ」、福島原発事故直前の2010年のエネルギー基本計画では「2050年より前」と書かれ、「逃げ水」のようではあるが一応「何年までに」という数字が入っていた。それが今回はとうとう実用化が何年になるか、数字をもって示せなかった。
画餅ぶりはスケジュールだけではなく、技術面も同じだ。
2月の経産省のリリースは、あたかも各メーカーが核燃料サイクルの新しい技術開発に乗り出し、活気ある競争が生じるかのようなイメージで書かれているが、同省幹部は「実現するかどうかわからないものに積極的に取り組む企業などあるわけない」と自嘲気味に話す。
そもそも世界各国はこれまで、もんじゅも含めて冷却材にナトリウムを使った炉の研究開発を主流としてきた。様々な炉型を試すということは、重金属炉やガス炉、溶融塩炉など実績の乏しい研究をまた一からやり直すことを意味するが、本気でやるとなれば膨大な時間とカネがかかる。これらの炉はナトリウム炉よりもはるかに技術的に難しいからだ。
今世紀半ばごろに運転するという実証炉を誰がつくるのかという問題もある。原型炉もんじゅの次の段階である実証炉は、実用炉の一歩手前なので、利用者である電力会社の費用でつくることになっていた。しかし、今回はこの費用負担の問題があいまいになっている。
そしてくだんの高速炉アストリッド計画については、こともあろうにまったく触れなかった。政府は16年にもんじゅ廃炉を決めた際、フランスのアストリッド計画への協力を大きく打ち出した。その後、これまでに200億円を投じ、18年度予算でも計画に参加する日本企業に51億円もばらまいたのに、しれっと記述しなかったのだ。
フランスがアストリッド計画から撤退するのは、60万kW規模で1兆円超もかかるとされる建設コストの高さに加え、原発依存度を現在の7割超から5割まで引き下げるというマクロン政権の方針が背景にある。要は原発の未来自体が先細りになったという判断からだ。
そもそも各国が民生部門で核燃料サイクルを目指したのは、ウランが分捕り合戦の末に高騰し、プルトニウム発電のほうがコストが安くなる時代が来る、という前提があったからだ。だが、米国のスリーマイル島原発や旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故で世界の原発建設は停滞し、そのような時代は来なかった。ドイツでは94年の原子力法改正で、使用済み核燃料を全量再処理する政策を住民運動の高まりなどもあって取りやめにした。サイクルの一端が途切れるやいなや、脱原発まで一気に進んだ。
一方日本では、高速増殖炉がダメならと、MOX燃料を普通の原発で燃やすプルサーマル計画を作り上げたが、この「なんちゃってサイクル」もほぼ破綻している。使えないまま50トン近くまでたまり続けたプルトニウムの削減をアメリカに求められた日本は、プルトニウムの増殖ではなくプルトニウムの削減方針を打ち出さざるを得なくなりこのプルサーマル計画を継続しているのだが、当初16~18基で実施する予定だったのが、福島原発事故の影響で4基のみになったことで、毎年2トンしかプルトニウムを消費できないでいる。
日本は、プルトニウムを増やすことにも減らすことにも失敗した核燃料サイクル政策をいまだに堅持しているのだ。
昨年12月の原子力関係閣僚会議は、かつて脱原発派として名を馳せた河野太郎外相から「国際社会に説明する立場からプルトニウムの削減が必要」との発言もあったが、10分で終了した。
同日閣議決定された19年度予算案には「革新的な原子力技術開発支援費」(6.5億円)に加え、アストリッド計画分も含めた国際協力研究開発費(41.5億円)が計上された。日本政府はこのようなごまかしをいつまで続けるつもりなのだろうか。