NGO利権を牛耳る大西ピースウィンズすり寄り。官僚・民僚理事が壟断し事務局が半壊状態。
2019年6月号 LIFE
漂流するJPFのホームページ
政府、財界、NGO(非政府組織)の3者連携による難民支援組織「ジャパン・プラットフォーム」(JPF)が、いよいよ幽霊船のような末期症状を呈してきた。参加NGOの相次ぐ不正発覚に、NGOべったりの永井秀哉共同代表の“暴走”で事務局長ら事務局管理職の半数が辞表を出して半身不随なのだ。1年前に理事23人中13人が一斉退任したのに続き、またも組織崩壊の危機を迎えている。
本誌が1年前から指摘してきたNGOの不正事案は事実と認定され、ヨルダンで不正受給があったJENに対し2千万円の助成金返還と1年間の助成停止処分、シリア大統領夫人系団体との契約書がデタラメだったアドラ・ジャパンも、2570万円の助成金返還と1年間の助成停止が決まった。
反省の色がなく調査にも非協力だったアドラの橋本笙子事業部長は、JPF理事と常任委員、さらに加盟NGO組織「NGOユニット」副代表幹事まで辞任に追い込まれた。昨年5月末に発足した現理事会メンバーは、共同代表に就く予定(本誌追及で辞退)だった橋本の主導で決めた顔ぶれだけに、全員が辞表を出すべきだが、元ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の石井正子理事は「大目に見てあげて」と最後まで抵抗した。
永井秀哉共同代表理事(左)と秋元義孝理事
Photo:Jiji Press
企業系理事がごっそり抜けたJPFは、棚ボタで共同代表になった元日本興業銀行出身の永井、外務省出身の秋元義孝宮内庁式部官長、旧大蔵省出身の井川紀道、経団連出身の金原主幸と、官僚や民僚出の守旧派理事が今や仕切っている。天下り先を失いたくないというわけでもないだろうが、彼らはNGOを甘やかし、自立を促す改革には消極的なので責任は重い。
筆頭が永井である。とにかく饒舌で、代表就任時の肩書は「東洋学園大学教授」だったが、短期の客員教授はすでに退職しており、無職の年金生活者なのに詐称したため人望が乏しい。
代表になるや、何を勘違いしたのか、有馬利男前共同代表とJPF改革を進めてきた事務局長に「いつ辞めるんだ。自分で事務局長をやる」と迫り、混乱を恐れた外務省に説得されたらしい。それでも事務局長の頭越しに職員に指示を乱発、東日本大震災で実績をあげた国内事業部の廃止・外部化などを理事会との協議抜きで強行しようとした。管理部や助成事業関連の部署の部長、部次長が次々に辞表を提出。全員が辞任理由として「永井代表の下ではやっていられない」と不平を漏らしたほど。
3月末の理事会では「事務局半壊は永井と小美野剛(NGO出身)の両共同代表の責任」と示唆する声も出たが、永井は反論できず、それでも後任がいないため解任されていない。
かたやJPFを牛耳り、既得権を享受してきた有力NGO、ピースウィンズの大西健丞代表にとっては、手勢のアドラやJENへの処分は痛手。ピースも崖っぷちで、「犬の殺処分ゼロ」を謳い、広島で捨て犬の保護施設ピースワンコを運営、動物愛護団体から非難を浴びて昨年は書類送検された。17年度には赤字に陥り、村上世彰や「ふるさとチョイス」の仕掛け人、須永珠代からの借入金でなんとか穴埋めした。
JPFの事業収入は政府の支援・助成金が96%を占めるが、ピースはその3分の1を受ける最大手。18年度も赤字で助成停止になれば存亡の危機に陥る。今年は事業報告の公開が大幅に遅れており、村上、須永氏への返済金捻出と監査に四苦八苦しているのだろうか。
不正の火種はまだ残っている。ピースのバングラデシュ事業で、連携先の現地団体に医療を任せたところ、モニタリングで危険な治療をしていたことが発覚したという。またICANがイエメンで行った物資配布事業でも、現地団体に助成金を渡したものの物資が流用された疑いがある。危険地への日本人派遣を避けるための現地丸投げは、NGOが単なる助成金の運び屋になり、形骸化して不正続発の温床になっていることの証左だろう。
もっと心配なのは、後任の事務局長選び。大西が元ピースのスタッフを送り込もうと画策していたが、永井は公募でなく、自分で候補者探しに動いている。NGO関係者が事務局長に就くようなことがあれば、JPFが乗っ取られかねない。
今まで支えてきた賛助会員の企業も心配し、事情聴取を重ねている。JPFを見限って手を引き始めるところが出てきて、理事の引き受け手もいない。ましてや代表理事となると、火中の栗を拾うようなものだ。
理事会は、①助成対象のNGOが、助成金の決定権限を持つ常任委員会に入るお手盛りを改革し、事前審査委と資産管理委を新設する、②NGOの不正を防止、厳正な処分を実施するためコンプライアンス委や事務局内に監査部門を設置、③情報の開示を徹底する―――という改革案をまとめた。永井はさすがに賛成に回ったが、強く反発しているのが秋元、井川、金原の時代錯誤トリオ。本音はお上意識からで「企業はどうせNGOにカネを出さない。資金を出す外務省の言う通りにしていればいい。あまり厳しくするとNGOが萎縮する。自由にやらせればいい」という放任主義だ。
新天皇が即位する令和の世に不正続出では日本の恥? とメールで問うと、怒髪天を衝く秋元式部官長から「前指導部の下ではJPF自体が新たな『援助機関』のごとく振る舞い、NGOの上に立つ機関として管理し、選別しようとしてきた」と反論、現執行部はNGOの支持を得られるあるべき姿に戻そうとしているとの擁護論が返ってきた。
が、JPF内での発言はもっと尊大で「NGO向け資金なんて捨て金でいい。日本人が現地で顔を見せていれば国益につながる」と言ってはばからない。
しかしNGOでもJPF理事のAARや、セーブ・ザ・チルドレンなどは「資金の出し手と受け手が重なっていると誤解されるので変えるべきだ」などと改革に前向きなのに、官僚・民僚理事が「NGOファースト」一本槍なのはどうしたことか。
大西が外務省のODA(政府開発援助)をめぐる有識者会議のメンバーとなり、JICA(国際協力機構)だけでなくNGOもODA事業に参入させるよう主張しているのは、かつてブログで「失敗したODA」を追及していた河野太郎外相へのすり寄りだろう。資金難のピースにとっては「お貰いの皿は多いほどいい」ということか。
5月末のJPF理事会に阿部俊子外務副大臣が出席する。JPFに巣食う大西派残党を一掃できるだろうか。(敬称略)