ベネズエラにみる政権転覆情報戦
2019年6月号 連載 [編集後記]
セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使
「臆面もない『偽ニュース』の雨の中にいま、私たちは立っている。私は偽ニュースに関して、何ページでも論文を書くことができる」
(セイコウ・イシカワ駐日ベネズエラ大使、5月10日、日本記者クラブの記者会見で)
イシカワ氏が会見で言及したのは、ベネズエラの野党指導者で国会議長のフアン・グアイド氏らによる4月30日のクーデター未遂事件についてだ。
米国や日本の朝日新聞など一部報道は、グアイド氏らが反ニコラス・マドゥロ大統領派の兵士らに守られながらカラカス中心部の空軍基地に入り、兵士らに政権支持をやめるように訴えたと報じた。クーデターが進行しているように思わせる内容だった。
これに対しイシカワ氏は、現地で撮影されたとするビデオを示し、兵士らは刑務所で発生した暴動を鎮圧するため出動すると言われてバスで空軍基地横に連れてこられた。騙されたことに気付きすぐに離脱が始まった。グアイド氏は空軍基地に入っていないと説明した。
40年以上も米国と対立してきたベネズエラ。イシカワ氏によると、経済制裁だけでなく、情報戦や心理戦、サイバー攻撃を仕掛けられているというが、世界一の経済大国兼軍事大国を敵に回すとはこういうことである。
政権転覆の情報戦には、一般市民への訴求度の高さからツイッターも使われる。強国の政権幹部が発する有象無象ないまぜの情報には、政権側も政権を倒そうとする側も注意が必要のようだ。
今回、米トランプ政権は、反政府勢力側に軍事介入の期待をさんざん持たせておきながら何もしなかった。ここ数年で、ベネズエラで最も信頼度が高かった野党指導者は、ワルシャワ蜂起でポーランド国内軍がソ連軍に見捨てられた如く、葬り去られようとしているのかもしれない。