現職の理事を候補に担ぎ、 傘下団体を総動員して 道場経営者や子供の親に 後援会への参加を求め、 名簿を作らせる公益財団法人など 聞いたことがない。
2019年7月号 POLITICS
「全空連」の笹川堯会長が担ぐ糸川正晃候補氏(左)
2020年東京五輪で追加競技となり、金メダル獲得の期待が高まる空手。要の振興団体である全日本空手道連盟(全空連)の競技登録人口が過去最高の9万人になり、鼻息が荒い。その頂点に君臨するのは、先代会長の父・笹川良一氏の後を継ぎ、全空連会長在位が24年に及ぶ笹川堯元衆院議員(83)。文字通り「全空連のドン」である。空手道推進議員連盟会長の菅義偉官房長官(法政大学空手道部出身)の支援を仰ぎ、IOCのバッハ会長に直談判、遂に悲願を達成。政治力を見せつけた。
勢いづく笹川氏は昨年9月、全空連理事の糸川正晃氏(44)を、自民党公認候補として参院比例(全国区)に擁立する挙に出た。全空連は五輪種目入りに際し72万筆の署名運動の実績があり、自民党には全空連との距離を縮め、党員数を増やす思惑があったと見られる。
糸川氏は05年衆院選に国民新党から初当選。09年に民主党から出馬し再選したが12年に落選。3年前に笹川会長の秘書として全空連入りしたものの、空手の経験はない。全空連は糸川氏の推薦を機関決定したが、参院比例で当選するには候補者名の投票が10万以上必要とされる。
このため、今年になって全空連は日本空手道会館内に「糸川まさあき選挙対策本部」を立ち上げ、「100万人をめざす!!」というスローガンを掲げ、糸川後援会の会員募集を加速させた。
3月某日、全空連傘下の47都道府県連盟に属する数多の空手道代表者に対して、全空連副会長名で糸川後援会への参加要請文が届く。そこには「各道場において代表者には『本部長』に、支部長・師範代には『副本部長』に、保護者会の代表には『幹事』に就任していただき、糸川支援体制を構築」し、「道場関係者にとどまらず近隣の方や、全国の友人・知人の方にも会員になっていただく」などと、上から目線で書かれていた。さらに同封された後援会名簿(10人用)に氏名、住所、電話番号、メールアドレスを書いて、選対本部にFAXで送るようにともあった。驚いたのは子供の親たちだ。「身体を鍛えるために趣味で道場に通わせている。政治は関係ない」「個人情報保護の問題もある」と苦情が噴出したという。
関係者は「昨年12月、全空連から都道府県連盟に支援要請と併せて50万円が振り込まれ、3月には後援会の強化と併せて60万円が振り込まれた」と打ち明ける。事実とすれば、47都道府県連盟に計5千万円を超えるお金が流れたことになるが、全空連の収支予算書には該当する費目が見当たらない。そもそも全空連は毎年2億円を超える補助金等を受け取る公益財団法人。大金の出所が気にかかる。
文部科学省OBは「スポーツ支援団体の理事に国会議員が就くことはよくあるが、現職の理事を候補に担ぎ、傘下団体を総動員して道場経営者や子供の親に後援会への参加を求め、名簿を作らせる公益財団法人など聞いたことがない」と言う。
本誌の取材に笹川会長は「五輪初参加は、私に政治力があったから。スポーツ振興には政治力が欠かせない。私もいつまでやれるかわからないから糸川君に後を託したい。参院比例は職域代表制だから選挙応援は問題ない。お金を出したのはサポーター拡大のため、後援会づくりとは関係がない。すべて理事会に説明している」と答えた。