ブレインビジョン代表取締役社長 市川道教

光で脳と心臓の活動を捉える

2019年8月号 BUSINESS [ヴィジョナリーに聞く!]

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市川道教氏

市川道教氏(いちかわ みちのり)

ブレインビジョン代表取締役社長

1958年東京都生まれ、61歳。86年筑波大学大学院博士課程を修了し、電子技術総合研究所に入る。98年理化学研究所に移り、ブレインビジョンを設立。2008年に本格的に営業を開始。

――装置の仕組みは?

市川 脳の活動は、神経細胞の膜の電位の変化を捉えることで計測できます。生体の活動はイオンの流出入を伴うのですが、ナトリウムイオンやカリウムイオンが動くと膜の電位が大きく変化します。従来は細胞に電極を取り付けてそれを測っていました。ただ、電極は100個付けてもそれぞれの点を計測するだけで、活動を面として捉えることはできません。

我々の装置は、脳を膜電位の変化に応じて光る蛍光色素で染め、その光り方の変化を高感度・高速度のカメラを使って計測し、疑似カラーの映像で表します。どの領域がどのような活動をしているかを2次元で、しかもミリ秒単位で把握することができます。心臓は、拍動の同期性を取るために電気を使っていて、その部分は神経とほとんど似た構造なので、同じ手法を使って活動を計測できます。

――研究者はこの装置を何に役立てているのでしょう。

市川 脳の仕組みや病気を知るのに使っています。心臓の動きも随分わかってきていて、心房細動の病気の特定や、薬の効き具合を調べるのに使われています。普及が進んでいるMRI(磁気共鳴画像装置)は、どこが活動しているかはつかめますが、どう活動しているかは捉えることはできません。今はiPS細胞ブームで、細胞の培養がうまくいっているか生理活性を調べたいというニーズが高まってきましたので、それを調べる専用の装置も作りました。

――装置作りのきっかけは?

市川 電子技術総合研究所にいたときヤリイカの巨大神経軸索を使って神経の活動計測の研究をしていました。複雑な脳活動を簡単に見たくて光による活動計測装置を作りました。最初は自分たちだけで使っていましたが、海外の研究者から使いたいと相談されて会社を立ち上げました。お客様は100%研究者です。

――次の目標は?

市川 光計測の手法で、体の外から脳や心臓の活動を計測できないか、研究を始めています。体外から脳や心臓の活動を拾えるようになれば、診断に使えるようになります。課題は、非常に弱い光を捉えなければならないことです。いま、ホタルイカや夜光虫が持つ物質なのですが、カルシウムに反応して自ら光る、ルシフェリン系の発光素を遺伝子を使って体内に発現させる研究や、生体内の変化に伴って生じる酵素活性をマーカーにして生理的変化を体外から捉える技術の開発が進んでいます。研究者は記憶とか意識とかをつかさどっている脳深部の仕組み解明を狙っています。脳の奥のほうまで計測できる装置も作らなければなりません。

(聞き手/本誌編集人 宮﨑知己)

   

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