ノジマ代表取締役社長 野島 廣司 氏

スルガ銀は再建できる!ノジマ流「全員経営理念」

2020年1月号 BUSINESS [トップに聞く!]

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野島 廣司 氏

野島 廣司 氏(Hiroshi Nojima)

ノジマ代表取締役社長

1951年神奈川県生まれ。中央大商学部卒業後、父が創業した有限会社野島電気商会(現ノジマ)入社。78年取締役、94年より社長。同年株式を店頭登録、2016年東証一部上場。15年以降、ITX、ニフティなどを買収し、売上高5千億円超を達成。10月にスルガ銀行の筆頭株主となった。

――10月にスルガ銀の創業家から全株を買い取り筆頭株主(18.5%)に。家電量販による銀行支援は例がありません。

野島 高1(16歳)の冬に軽自動車免許を取ると新車を買ってもらい、父が営む電気店の割賦代金の集金を手伝うようになりました。世間知らずの「集金小僧」はたいへんでしたが、今思うと、父は私に世の中や商売の本質を見せようとしたのかもしれません。後に、尊敬する傑物・林野宏さん(クレディセゾン会長)から決済ビジネスの卓抜なアイデアとダイナミズムを学び、この10年余りクレジット会社を手に入れたいと狙っていました。

――スルガ銀は狙い目でしたか。

野島 初めは純投資のつもりでしたが、知れば知るほどスルガ銀は「素晴らしい銀行だ」と思うようになりました。まず、当社とスルガ銀は神奈川、静岡を中心に店舗展開し、顧客基盤を掛け合わせたビジネスチャンスが広がること。次にライバル(横浜銀や静岡銀)に挟まれたスルガ銀がリテールに徹し、独自の価値提供を実現しながら成長を遂げた道のりは、激烈な家電量販競争の中で、他社に先駆けた新しい商品やサービスを提供することで成長を遂げた当社と重なること。5月には「対面とネットにおける強みを相互活用しながらクレジットカードを含めた金融デジタル経済圏を作る」ための業務提携を結び、6月の株主総会では「悪い点を直したらもう一度、素晴らしい銀行に変わります」と理解を求めました。

収益の柱「個人ローン」が強み

――11月14日、スルガ銀が25年度までの「中期経営計画」を発表しました。

野島 新しい経営陣が規模を追わない姿勢を鮮明にしたことは評価できます。

――不正が多発したシェアハウス向け融資では、オーナーが物件を手放せば、借金を免除する方針も打ち出しました。

野島 シェアハウス関連融資は90%以上の貸倒引当金を積んでおり、業績への影響は小さいと思います。異例の債務免除とはいえ、再建に向けた「負の遺産」の処理を急がなければなりません。

――個人ローン期末残高が、前年度末比で2千億円減り、19年9月期の個人ローン実行額は27億円に激減しています。

野島 4月まで金融庁から業務停止命令を受けた後遺症が残っているのでしょう。さぼり癖がついてしまったと思いたくありません(笑)。不動産による相続対策や資産形成ニーズは、今も根強いものがあり、不動産ローンの全てが悪者ではない。中計の営業戦略(トップライン戦略)に記されたように「これまでよりリスクを抑えたミドルリスク・ミドルリターン」モデルへの転換は必要ですが、スルガ銀の収益の柱が「従来からの強みである投資用不動産・住宅・無担保の個人ローン」であることに変わりはありません。中計における22年度の新規ローン実行額は1900億円、うち個人ローンは1200億円となっていますが、この目標を達成し、連結純利益70億円(計画)を稼ぎ出せるか、経営手腕が問われます。スルガ銀の再建は、中計の前半3年間(19~22年度)にかかっていると思います。

――筆頭株主になったノジマとの連携が、中計に盛り込まれませんでした。

野島 株式買い取りを優先させたため経営陣とじっくり話し合う機会がありませんでした。クレジットカードの共同事業化はもとより、いずれは地域活性化に貢献するような新しいサービスを創出し、共同記者会見に臨みたいものです(笑)。

――株式を買い増し、持ち分法適用会社にすることを視野に入れていますか。

野島 それは考えていません。マイナスの要素も考えなければなりませんから。

ソニーの大賀典雄さんの教え

――ノジマは15年に携帯電話販売代理店運営のアイ・ティー・エックス(ITX)を約850億円で買収しました。

野島 当時、当社の売上高は約2200億円に対しITXは約2500億円。「小が大を呑んだ」と揶揄されました。私がITXを知ったのは05年頃。キャリアショップ事業は、当社の提案力のある人材を効果的に活かせるので、何としても欲しかった。買収代金は全額借金をして払いました。それに比べるとスルガ支援は大それたことじゃないのです(笑)。

――16年にジャスダックから東証1部に市場変更。17年にネット事業の草分けニフティを約250億円で買いました。

野島 家電量販、携帯電話販売に加え、ネット接続事業という三つ目のエンジンを持つことでIoT時代の先の、家電でも携帯でもインターネットでもない、新しい業種を構築したい。全ての家電がネットを介してスマホなどと繋がる時代になると、リアル店舗とネット事業の繋がりが成功のカギになると考えました。お陰様でニフティは会員数がV字回復し、ITXも売場強化の成果が出ています。

――ノジマの行動指針として「全員経営理念」というものがあるそうですね。

野島 20年ほど前、ソニーの大賀典雄さん(当時会長)に会社の悩みを打ち明けました。「外から招いたベテランに任せた多くの子会社がうまくいきません」と。大賀さんは「外からのベテランより若手社員に活躍の場を与えるといい」と仰います。「大きな失敗をしたらどうします」と尋ね返すと「愛社精神のある人なら会社に残り、失敗を取り返そうと頑張る。長期的に人を育て会社の宝にしなさい」――。失敗覚悟で若手にチャンスを与え、評価に合った待遇をし、愛社精神こそが良い会社を育てるとの教えでした。私は魂を揺さぶられるような感動を覚えました。やがて私はノジマで働く人すべてが、単にサラリーマンとして給料をもらうという意識にとどまるのではなく、一経営者としての意識を持ち、行動してもらいたいと思うようになりました。そしてノジマが目指す経営のあり方を言葉にしました。それが、「社会に貢献する経営」「オープンで公正な経営」「独創的で革新的な経営」「人間愛がある経営」「向上心がある経営」という五つからなる全員経営理念です。また8年前からノジマ流の価値観や行動指針を『ノジマウェイ』として冊子にまとめ、人材育成のコツなども紹介し、グループカルチャーの強化と継承に役立てています。

(聞き手/本誌発行人 宮嶋巌)

   

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