「風蕭蕭」

核のゴミ処分場「誰かが手を挙げないと」 片岡春雄・北海道寿都町長の試み

2020年11月号 連載 [編集後記]

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片岡春雄・寿都町長

「誰かが手を挙げないとこの話は進まない。私は肺がんから抗がん剤と放射線で助けられた人間で、生かされたということは地域のため、日本のために何かいいことをやるべきだと言われているような気がした。どこも手を挙げられないということで、寿都が適地かどうかはわかりませんが、一つ手を挙げたというのが一番の本音だ」

(片岡春雄・寿都町長、10月2日、日本記者クラブの会見で)

核のゴミ「高レベル放射性廃棄物」の最終処分場の誘致を複数の自治体で競い合う|。そんな機運を率先して創り出そうとする首長が現れた。かつては鰊御殿が立ち並んだがいまは寂れる、北海道寿都町の片岡町長だ。

寿都は強風が吹くことで有名で、町営の風力発電機が11基もある。2900人ほどしか住んでいない小さな町だが、この関係で町長は経済産業省資源エネルギー庁にパイプがある。「トイレなきマンション」を肥大化させてきた政府にとってこんなありがたい話はないだろう。自分のところだけでなく他の自治体の立候補を促す触媒になってくれるというのだから。

町内には反対の意見を持つ住民もいるが、片岡町長が透明性の高い議会での手続きを後回しにしてきた関係もあり、反対運動は高まっていない。また、片岡町長は賛成が過半数だとして住民投票にかけない方針。「2900人といったら大家族の感じ。日々住民と接する中で、この方はこっち向いていないな、こっちを向いているなというのは分かる」「私の肌感覚は間違っていない」と話す。

半世紀かけて政府が学習したのは、原子力基本法が謳う「公開」「自主」「民主」の三原則に縛られては原発施設の立地は進まないこと。ものわかりのいい首長が現れるのを待つ戦術が福島原発事故以来久しぶりにハマった。

『風蕭蕭』は今回で終わります。

   

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