弁護士ドットコム会長 元榮 太一郎氏(聞き手/編集長 宮嶋巌)

わたしがいったん実業家に戻る理由

2022年4月号 BUSINESS [リーダーに聞く!]

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1975年生まれ。慶大法卒。弁護士。2005年弁護士ドットコムとAuthense法律事務所を設立。16年参議院議員。20年財務大臣政務官。不出馬を表明し、21年12月現職に復帰。

――参院選不出馬を表明し、昨年12月に弁護士ドットコムの会長に復帰しました。

元榮 この間、私自身の役割を考え直し、千葉県の代表である参院議員には、県政で汗をかいた方が相応しいと、臼井正一県議に道を譲ることにしました。

――慰留されませんでしたか。

元榮 故竹下亘先生(竹下派会長)が「もったいない」と絞り出すような声で仰って下さり、

上司(当時財務相)であった麻生太郎先生は「私も随分悩んだことがある」と親身に話を聴いて下さったことが残っています。

――国会を離れても政界からは引退しないと明言しています。

元榮 地元の皆さん、政官界の諸先輩の方々には感謝の気持ちしかありません。5年半の議員活動を通じて、私はたくさん学び、気づくことがあり、とりわけ国家観、公徳心について深く考えるようになりました。人々が幸せに暮らせる、よりよい社会を創りたいという気持ちは変わりません。いったん民間に戻っても当事者として政治にかかわっていきたいと思います。

――法制審議会が民事裁判の全面IT化を打ち出しました。

元榮 現行法は、訴状を書面で出すことや弁護士が口頭弁論に出廷することを義務づけていますが、政府は提訴から判決まで全ての手続きをオンラインで可能にする民事訴訟法の改正案を今国会にも提出する方針です。

私が「専門家をもっと身近に」という創業理念を掲げ、「困っている人と弁護士とをインターネットでつなぐ」サービスを開始したのは2005年。17年の歳月を経て司法領域のDXを多面的に推進するビジネス環境が整ったという高揚感を抱いています。これからは顧客開拓から案件の解決に至るまで弁護士業務が次々とDXされていく、まさに新時代です。当社が、司法のDXに必要不可欠なプラットフォームになることを目指してまいります。

――電子契約サービスの「クラウドサイン」も上げ潮ですね。

元榮 これをサービスインしたのは7年前――。日本の電子契約市場の立ち上がりを支え、苦労の連続でしたが、テレワークの促進、行政の脱ハンコ、デジタル庁の発足などで弾みがつき、今第3四半期の契約送信件数は115万件(前年同期71万件)を突破。電子契約の国内標準として圧倒的なシェアを獲得しています。現在は「サイン」中心ですが、最新のテクノロジーにより契約書の「作成」から「レビュー」「サイン」「保管」まで一気通貫でIT化する「契約ライフサイクルマネジメント」構想を強力に推進したい。

――米国の「ドキュサイン」だけでなく、いずれは中国系企業も進出して来そうです。

元榮 広い意味での経済安保には機微に触れる契約情報も含まれると思います。市場競争が激化しても、国益の観点から国内電子契約のインフラは国産システムが担うべきであり、使命感と遣り甲斐のある仕事です。

私は「一見さんお断り」の「二割司法」を解消したいという思いから、周囲の反対を押し切り29歳の時に起業し、そこから弁護士とネットで簡単につながる「新しい常識」が生まれました。今、日本に足りないのは成長戦略です。突き抜けた社会的な価値を創出する、成長産業の担い手は常に民間から現れます。DX、AI、テクノロジーをテコに、実現不可能と思われた新事業に挑む時代であり、そこからまた新しい常識が生まれてきます。 かつて安倍元総理は岩盤既得権にドリルで穴を開けると仰いましたが、岩盤を崩すことは民間企業にもできます。私が実業家に戻る決断をした所以です。

(聞き手/本誌編集長 宮嶋巌)

   

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