2022年6月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
物価が上がってきた。3月の消費者物価指数は前年同月比1.2%上昇。4月の東京都区部は同2.5%アップした。生鮮食品を除くとそれぞれ0.8%と1.9%に下がるが、日銀も「2022年度には、いったん2%程度まで上昇率を高める」との見解を示している。携帯電話の通信料下落の影響が剥落することも一因だ。
ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格は世界中で高騰している。インフレが加速している欧米各国は金融引き締めに舵を切っている。ひとり日銀のみデフレ時代の緩和スタンスを堅持しているため、金利差を背景にマーケットで円は売り浴びせられ、20年ぶりの円安水準をつけている。すでに円安が国益だった時代は過去のものとなり、一部の輸出企業を除き日本経済や国民生活の足を引っ張っている。
政府・日銀が「デフレ脱却」を喜んでいるかと言えばそうではない。岸田文雄首相は「(円安は)多くの関係者にとって好ましくない」と発言。13兆円もの原油価格・物価高騰等総合緊急対策を実施することを決めた。現状を「物価高騰」と認識しているのであれば日銀が量的緩和をやめればすむ話なのに、借金して財政出動という道を選ぼうとしている。
頑なに政策を変更しない日銀は、長期国債の利回りが0.25%を上回らないよう連続指値オペと呼ばれる買い入れまで実施している。そうまでして金利上昇を抑え込みたいのはなぜか。超低金利で生きながらえているゾンビ企業を守るためではなかろう。金利が上がれば国債の利払い費増で財政が圧迫されるうえ、大量の国債を保有する日銀のバランスシートが傷むのを避けたいのではないか。マーケットは黒田東彦総裁が退任する来春まで金融政策が変わらないことを織り込みつつある。庶民の賃金は上がらなくても、投資で稼ぐ富裕層は困らない。
(ガルテナー)