連載コラム:「某月風紋」

2023年3月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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立春の池袋駅の東口に降り立った。JRと西武、東武線のそれぞれの駅の乗降客を合計すると1日当たり170万人を超える。駅の表玄関を壁のように取り囲むようにして、西武百貨店本店はある。そごう・西武はセブン&アイ・ホールディングスの傘下にあるが、3月にも米国のファンドに売却されて、セブンと提携するヨドバシホールディングスに売り場構成は委ねられる。

西武鉄道グループを率いた堤康次郎氏が1964年に亡くなった後、次男の故・清二氏に残されたのは、百貨店本店と、隣接する東京丸物だけだった。

日本経済がバブルに駆け上がる中で「セゾングループ」の旗印を掲げた清二氏は時代の寵児と持て囃され、百貨店網を拡大し、スーパーやクレジットカード部門などに進出した。

「セゾングループが独自に作り出したのは所詮、無印良品ぐらいかもしれませんね……」

絶頂期の清二氏が漏らした一言が耳朶に残る。後に不良債権の重みでグループが崩壊する予感を抱いていたのだろうか。

清二氏が手掛けた美術館、劇場など「情報発信」型の多くのプロジェクトは、丸物の東京店の再建過程で「PARCO」という、それまでにはない業態を開発した東大の同級生だった故・増田通二氏のモノマネだった。若者に人気があるブランドをビルの店舗内に「編集」し、劇場を併設して成功した。

南欧風街づくりで知られる「スペイン坂」を上ると、渋谷PARCOの裏側に出る。正面は「公園通り」である。「渋谷は路地が多いので勝手に名前をつけたんですよ」と、ちゃめっけたっぷりだった増田さんの顔が浮かぶ。

池袋駅の周辺の雑踏には、アニメのキャラクターをあしらった旗が風に揺れている。南長崎地区にある「トキワ荘」は、手塚治虫や藤子不二雄らが青春を過ごした地。増田さんが見たら垂涎の街頭だろう。

(河舟遊)

   

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