連載コラム:「某月風紋」

2023年4月号 連載 [コラム:「某月風紋」]

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2022年に0.9%低下した実質賃金が、23年1月には4.1%減と下げ幅を拡大した。物価上昇に賃上げが追い付かない。先進国で実質賃金が長期間低迷しているのは日本のみ。さすがに今年の春闘では、大企業はそれなりの賃上げをするようだが、非正規はどうか。1人当たりGDPは早晩、韓国にも抜かれそうだ。

上場企業はこれまで、業績が堅調で配当や自社株買いを増やしても、賃金にはあまり回さず内部留保を積み上げてきた。100年超続く長寿企業が多い日本は「持続可能性」を重視し、危機に備えて固定費を抑制し借金を減らしてきた面がある。

労働組合も、リーマンショックなどの危機時に雇用の維持を優先し、賃上げを強く求めてこなかった。そもそも日本の組合は産業別ではなく企業別なので、組合幹部が経営者的な発想になりやすい。組合を出世のステップと考えていれば、経営陣にモノも言いにくい。

物価上昇で困るという意味では、高齢者の方が切実だ。年金支給額は、マクロ経済スライドと呼ばれる調整措置により上がらない。デフレ時代に名目の支給額を減らさない見返りに、未調整分を将来に持ち越し、インフレになっても年金額が上がらないようにした。

今年10月に導入される消費税のインボイス制度は、零細企業や個人事業主の負担を増やすため国会でも反対論が根強い。だがこれも、消費税を顧客から受け取りながら、納税しない「益税」の存在が背景にある。長年放置されてきた。

目先の痛みを和らげるために導入した様々な施策は、長く続ければひずみが大きくなる。経済学者の野口悠紀雄氏は「政府の無駄な補助金はやめるべき」と話していたが、日本は国や自治体にぶら下がっている企業・団体が多い。一度補助金漬けに陥ると、そこから抜けるのは容易でない。

(ガルテナー)

   

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