山形新聞の寒河江社長が突如退任へ/社内の不満が爆発/岩手日報の東根社長解任が痛手

号外速報(4月19日 17:45)

2023年5月号 DEEP [号外速報]

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突然の退任表明だった。

発行部数18万部、県内シェアが60%前後で絶大な影響力を誇る山形新聞社(本社:山形市)。10年以上も代表取締役社長と主筆を兼務し、「山形のプーチン」と揶揄される寒河江浩二(さがえ・ひろじ、75)氏が、社長退任の意向を固めた。

絶対的な権力を握りながら退任表明

山形市にある山形新聞本社

「衝撃の発言」は4月3日の幹部会で飛び出した。

同社関係者が声を潜めて言う。

「寒河江社長は毎年、新年度のはじめに副部長以上の幹部を会議室に集めて訓示をします。この日も集まった約50人に上半期の目標などを伝えた後、終了間際に『実は6月に社長を退任することにした』と寂しそうに話したようです。退任は一部の側近にしか事前に伝えておらず、出席者の多くが目を丸くしたそうです」

同社の株主総会と取締役会が6月に開催予定で、寒河江社長は会長に就任、後釜の社長には佐藤秀之専務(63)が昇格するという。

2012年から社長と主筆という二大ポストに就き、15年からは山形県経営者協会の会長という地元経済界のトップも務める寒河江氏。ひとつ疑問なのは、こうした絶大な権力を手にしながら、なぜ、この時期に退任表明をしたのかということだ。

「まさかの実名報道」で若手・中堅記者が退社

「山形新聞のプーチン」こと寒河江浩二社長・主筆(2月28日付け「山新グループ報」より)

寒河江氏は毎週のようにゴルフをするなど、まもなく76歳になるとは思えないほど健康だ。コロナ禍でも同社の経営は比較的安定しており、どこかの県知事のような女性スキャンダルもない。

傍からは退任する理由が見あたらないが、「寒河江社長の独裁的な編集方針をめぐり、社内の不満が爆発寸前なのです」と話すのは地元のメディア関係者だ。

昨年7月から11月にかけて、山形新聞は同紙の記事を無断で市議らがツイッターやフェイスブックなどに載せていた問題を大々的に報じた。

著作権法違反の可能性があり、国会議員4人、県議13人、首長3人、市議・町議52人が、自身のSNSに「無断投稿」をしていたという。

不可解なのはそこからで、同紙はこの72人のうち、なぜか8人のみ実名で報じた。このようなレベルの行為で実名を出すのは異例中の異例で、多くの読者が疑問をもった。

「これら一連の報道は、寒河江社長が主導したといわれています。議員の実名を出すかどうかは、社長の好き嫌いで決まった可能性もある。気骨のある社員からは『実名は明らかにおかしい』『権力の乱用だ』といった批判が出ましたが、社長はどこ吹く風でした」(前出のメディア関係者)

この実名報道後、県議や市議らの怒りはすさまじく、後援会スタッフとともに同紙の購読をやめた人もおり、同紙に抗議文や質問状を出すことも、一部の間では検討された。

本誌「FACTA ONLINE」では11月11日、「山形新聞がまさかの実名報道」という見出しでこの件を報じた。

同新聞社内ではこの実名報道後、社長を批判する社員が増え、才能あふれる若手・中堅記者が3人も社を去ったという。寒河江社長の社内での求心力は急速に低下していった。

「うちでも同じことが起きてほしい!」

寒河江社長にとって、さらなる「悲劇」が起こる。

今年2月末、同じ東北の地方紙トップで刎頸の友だった岩手日報社の東根千万億(あずまね・ちまお、70)氏が、社長を降ろされたのだ。

ことの顚末は「週刊文春」でも報じられているが、2014年から社長を務める東根氏のワンマンぶりに周囲の不満がたまり、クーデターのような形で社長の座を追われた。

「岩手日報の社長交代劇は、ほどなく山形新聞社内でも広まりました。『うちでも同じことが起きてほしい!』という声があちこちから上がったようです」(前出のメディア関係者)

東北で長らくともにワンマン体制を敷いてきた東根氏の失脚、山形新聞社内での社員の不満の増大……寒河江社長の心中は穏やかではなかっただろう。そうした社内外の状況を踏まえての「4月3日退任表明」だったともっぱらだ。

本誌編集部は4月14日、山形新聞社に「社長が6月に退任する意向を示したというのは事実か」を書面で尋ねた。回答は「人事に関することについて、現時点で申し上げることはありません」だった。

「山形のプーチン」の末路に注目

さきの統一地方選では、実名を出された8人のうち4人が山形県議選に立候補し、2人が落選をしたが、山形新聞社内で一連の実名報道を検証する動きはないという。

その一方、社内では寒河江氏が6月以降、どれだけ会長を続けるかに関心が集まっている。親しい経済人に「2年やりたい」と伝えたというウワサも出ているが、社員からは「阻止すべき」との声も上がっている。寒河江社長の子飼いとも言われる佐藤専務が、社長になることへの不信感も根強い。

一難去ってまた一難……。

社長から会長となる「山形のプーチン」が、6月以降どのような判断を下すのか。その末路に多くの視線が注がれている。

   

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