2024年9月号 連載 [コラム:「某月風紋」]
「港区女子」とは、同区を中心として働き遊ぶ高収入の女性を呼ぶ。一流企業やベンチャーなどで働いているイメージである。レストランやクラブなど表通りのビルを闊歩している彼女たちは、その裏手に広がる低層の住宅街を知らないだろう。戸建ての賃貸住宅に7年ほど住んだ。街は昼でもシーンと静まり返っている。子どもたちが遊ぶ姿もない。
軽トラックに野菜などを積んでこの地区を回っている光景にでくわした。家々からお年寄りが出てきて買い物をする風景に驚いた。福島・磐梯山の中腹にある戦後の開拓集落に祖父母が暮らしていた。軽トラックの行商が集落の頼りだった。
東京都内に「限界集落」が増えてきている。1丁目、2丁目…といっても、地方の市町村並の人口を抱えている。65歳以上の人口が地域の半数を占めて、地域の共同体の維持が難しい。新宿区の都営団地「戸山ハイツ」や羽田空港近くの大田区の一部は、限界集落として知られている。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年の75歳以上の人口が占める比率は、20年を100とすると、全国が130.8なのに対して、東京は148.6。高層マンションの建設によって人口が急増している中央区は236.2である。
私鉄の乗り入れという現象によって新しい山の手が拡大している。神奈川県を主要エリアとしていた相模鉄道が東急・東横線に乗り入れたのは昨春。相鉄・ゆめが丘駅にできたショッピングセンターに出かけてみた。周辺で高層マンションの建設が進む。
印象は、玉川高島屋ショッピングセンターに近い。モータリゼーションの本格化を予想したように日本で初めて郊外型ショッピングセンターとして、1969年に開業した。
「新しい流通革命」が起きている。薬だけではなく冷凍食品なども売る、ドラックストアの合従連衡であり、生鮮食品を販売するコンビニやミニショップの増加である。都市の限界集落化の種がどのような産業を生むだろう。
(河舟遊)