2009年1月号 連載 [CHALLENGER]
12月11日、関西大学教授の白石真澄氏(50)は、千葉県庁に堂本暁子知事(76)を訪ねた。
堂本知事の任期満了に伴い09年4月4日に千葉県知事選が行われるが、白石氏は先に民主党推薦で出馬する意向を固めている。白石氏は千葉市美浜区に住んでおり、千葉県の教育委員を務めているが、知事選出馬により「一身上の都合で」退任する辞職願を提出していた。
この日は、退任の辞令を受け取るための訪問だが、ちょっと微妙なやりとりがあった。知事が明かしたところによると、白石氏は「決心が固まった。よろしく」と出馬を宣言、「もっと早く来るべきなのに、挨拶が遅くなりました。教育委員も任期途中で辞めることになって申し訳ない」と述べたという。
これに対し、堂本知事は「元気でお互いにがんばりましょう」と応じたという。この「お互い」には白石氏もドキッとしたはずだ。
2期目の堂本知事は、かつて「2期で終わり」が約束だったが、11月20日の会見で「いつか時期を選ばなければならないが、前向きにと申し上げておく」と、3選出馬の意欲を隠さなかったからだ。
「お互い」は、千葉県知事の座をめぐって現職と新人の「女の火花」が散る可能性の示唆とも聞こえる。
白石氏は、お茶の間ではテレビの美人評論家として知られる。大阪出身で関西大学大学院工学研究科建築計画学の修士課程を修了。西武百貨店、ニッセイ基礎研究所、東洋大学経済学部教授を経て、今は母校、関西大学の政策創造学部教授だ。
専門はバリアフリー、少子高齢化と地域システムという触れ込みだが、学問ではさしたる実績はない。内閣府の規制改革・民間開放推進会議や構造改革特区推進本部評価委員会、少子化社会対策検討会で委員を務め、ほかに国交省や農水省などの審議会委員の肩書を多数持っている。「霞が関のペット」なのだ。
それがテレビ番組で重宝されるきっかけになった。子育てや人材派遣、混合診療などについての発言は、小泉流の新自由主義に近く、06年自民党総裁選の候補者演説会では司会を務めるなど、どちらかといえば自民党寄りかと見られたが、上昇志向の強さから民主党推薦で知事をめざすことになったのだろう。
TBS出身でディレクターとして新聞協会賞を受賞した堂本知事が、同性のテレビ評論家にライバル心を燃やさないはずがない。土井社会党、新党さきがけを経て、参議院議員から転じた堂本氏は、もともと一党に帰属するのを潔しとしない。彼女を担いだ市民ネットの言いなりにもならなかった。役人のお膳立てどおりだった沼田県政を否定し、住民との話し合いで政策決定していく堂本県政は、役人にも県議にも理解を超えるものだ。だから、白石氏擁立は“堂本おろし”でもある。
しかし今の千葉県は政争ムードではない。自民党内では「堂本はダメ」という若手が、公明党とともに白石氏に相乗りしようとする動きを見せ、本人も自民県連を訪れて推薦を要請した。ところが、民主党の鳩山由紀夫幹事長が「相乗りは望ましくない」と牽制、自民党の選挙対策プロジェクトチームも12月9日に「政策の違いなどから推薦しない」と決定して望みは絶たれた。
前回、6086票差で惜敗した森田健作氏(58)や県議の西尾憲一氏(57)も出馬の意欲を見せている。「誰が知事をやっても、金欠の千葉では堂本県政と変わらない」という冷めた意見もあり、その堂本知事が出馬すれば楽勝とはいかなくなる。
やはり出る杭、いや、“美人”は周りから打たれるのか。