2009年12月号 連載 [IT万華鏡]
「権利許諾の観点からは明らかに問題があると思われますので、今後雑協デジタル委員会としてはサービス閉鎖の申し入れを行うとともに、状況の説明を求めるべくコミュニケーションを取っていきたいと思っております」。10月7日、日本雑誌協会(雑協)デジタルコンテンツ推進委員会委員長の大久保徹也氏から同委員会のメンバーにメールが一斉に飛んだ。
利用者が購入した雑誌のデジタル化代行を建前に、著作権者や出版社の許可を取らずに無断で雑誌をスキャンし、そのデジタルデータの販売に踏み切ったエニグモ運営の「コルシカ」に対する雑協の反応は早かった。コルシカ開始から2日後の10月9日、大手出版社が加盟する雑協はエニグモと協議し、雑協会員出版社分の販売中止を決定。その後、加盟していない出版社からも個別の取り下げ要求が続き、最終的には全誌が取り止めとなりサービスは休止状態に追い込まれた。
裏方の取次はミシマ社発行の『謎の会社、世界を変える。エニグモの挑戦』でエニグモと接点があった中堅の太洋社。出版社との許諾交渉は同社の役割だったが、実際にはほとんど動いていなかったようだ。出版社からすれば寝耳に水の話。エニグモを「潰してしまえ」と言い放った中堅出版社社長もいたという。
ただ、雑協が最終的に冷静な対応を選択した背景には、11年までに、実証実験を通じて少額課金システムや著作権料配分の仕組みづくりを検討するなど、雑誌のデジタル化をすでに表明していた経緯がある。委員の中には“悪役”エニグモの存在を著作権者との交渉に利用できないかと考える向きもあったようだ。
雑誌など印刷物のデジタル化は世界の潮流。主導権を握ろうとするネット企業と著作権を持つ出版社。エニグモは“謎の行動、日本を変える”とはいかなかったが、デジタル化の未来をほんの少しうかがわせた。