2020年9月号 連載
夫との会話である。最近、政治家から識者、タレント、スポーツ選手に至るまで、口から出るのは「…と思います」。この乱発が鬱陶しいのだ。披露宴会場――。司会者は「ケーキ入刀をお願いしたいと思います」、「お色直しに移りたいと思います」。なぜ「入刀をお願いします」と言えないのか。放送番組では司会者が「歌っていただこうと思います」と繰り返す。「…と思います」を連発する安倍総理には自信の片鱗も伺えない。確かに「思います」で締めると、当たりは柔らかくなる。断定を控えることで謙遜も見え隠れし、保身にもつながる。曖昧さを好む日本人には耳障りがいいのか…。
コロナ下、政府の「Go To トラベル」などをめぐる混乱は続くが、総理や担当相、有識者会議、知事会などの代表が揃って「~と思う」と発言すると、その無責任さが不安を煽る。再「緊急事態宣言」、「帰省」の是非議論の際も同じだ。
小池百合子都知事は「…を避けてもらいたいと思います」ではなく、「避けていただきたいと存じます」と意識的に発言してきた。ただ、最近は「思います」も多いため、政府や官邸との神経戦が原因でお疲れなのかと気になっているところだ。
石川泰子 都内在住 専業主婦