選挙の基本は「知名度」と「認識度」の向上。立憲民主党の敗因の一つは「嫌悪度」の高さ。
2021年12月号
POLITICS
by 三浦博史(総合選挙プランニング会社「アスク」社長)
三重県桑名市の「移動式投票所」
10月31日、新内閣発足から史上最短の日程で総選挙が行われた。結果は一部マスコミ等の予想を覆し、自民党は選挙前の276議席から15議席減らしたものの、「絶対安定多数」の261議席を確保し、公明党も3議席増の32議席を獲得した。
対する野党は、多くの選挙区で候補者調整が行われたにもかかわらず、立憲民主党は14議席減の96議席、共産党も2議席減の10議席と厳しい結果に終わった。
その一方で日本維新の会は選挙前の4倍近い41議席を獲得し、第三党に躍進した。
今回の総選挙は、自民党は選挙対策を統括する立場の甘利明幹事長をはじめ、平井卓也前デジタル相や現職閣僚の若宮健嗣万博担当相が小選挙区で敗れ、派閥の領袖である石原伸晃氏や、野田毅元自治相等のベテラン勢が議席を失った。野党側も立憲・枝野幸男代表は午前0時過ぎ、ようやく当確。「選挙の達人」といわれた小沢一郎氏、中村喜四郎氏も小選挙区で落選するなど、ベテラン議員の敗北も相次いだ。
今回、自公で293議席を獲得。保守といわれる維新を加えると334議席となり、憲法改正発議に必要な3分の2である310議席を大きく上回る結果となった。「保守 対 革新」という視点から見れば保守の圧倒的勝利と言えるだろう。
惨敗を喫した立憲の敗因について、様々な要因があるものの、選挙プランナーの視点で一点申し上げると、同党のCMや政見放送の「嫌悪度」の高さも大きな敗因の一つとして挙げられよう。
ポスターやビラ、ウェブサイト、SNS、こうしたキャンペーングッズの作成基準は、とにかく有権者の視点に立って、いかに(政党・候補者の)好感度を上げるかが原則だ。
次に、昨年から続くコロナ感染拡大が、選挙をどう変えたかについて述べてみる。
コロナウイルスが感染拡大し始めた昨年4月から今回の総選挙までの様々な選挙戦を見てみると、意外なことに投票率への大きな影響はあまり見られない。
約10年前の統一地方選直前に起こった東日本大震災の際は、津波で自治体庁舎が甚大な被害を受けたり、投票所が流されたり、原発事故で住民避難を余儀なくされるなど、選挙の適正な管理執行が物理的に困難として特例法を制定し、被災地の岩手、宮城、福島での地方選挙の期日は延期された。告示後も被災地への配慮から選挙カーなどを使った選挙運動の「自粛」が全国的に広がるなど、従前の選挙風景も大きく様変わりした。結果は、現職の首長や議員の当選が目立ち、新人候補は苦戦を強いられた。
一方、今回の新型コロナウイルス感染症、世界的なパンデミックは、世界の一部の国や地域で選挙が延期されたものの、ソーシャルディスタンス(社会的距離)やマスク等、様々な対策の徹底により、わが国や米国大統領選挙をはじめ、多くの国・地域は民主主義の根幹である選挙を実施してきた。
投票率はほとんど下がらなかったが、その大きな要因は、「期日前投票」の普及だ。投票日当日の投票率が下がっても、「期日前投票」の利用が年々増えていることで、全体として、投票率への大きな影響は避けられている。
しかし、コロナ禍はこれまでの選挙活動・選挙戦術に大きな変化をもたらしたことも事実。その一つは、人を動員することができなくなった、しにくくなったこと。特に昨年春から夏にかけては人々のコロナに対する恐怖心は大きく、「密」をつくらず、選挙でクラスターを起こさないために、決起大会や出陣式・第一声、個人演説会などをリモートで行ったり、選挙の基本である有権者との「握手」も、エアタッチやグータッチに変わった。また、候補者はもちろん、スタッフ全員が、検温やマスク、消毒等、徹底した衛生管理を強いられ、選挙事務所も、これまでのように支援者が集まり、活気に満ちた風景はほとんど見られなくなった。
そうした窮状を乗り越えるために、SNSや動画等のネット戦略を強化する陣営が急増した。
しかし、今回の総選挙は「第5波」の収束のタイミングとも上手く重なったことで、徹底した感染対策を講じながら、従前ながらの動員による出陣式・第一声や街頭活動が行われ始める等、少しずつ以前の選挙戦が戻ってきた。「飛沫感染」を防ぐために、参加者に声を出さないよう呼びかける陣営も少なくなかった。
選挙の基本は「知名度」と「認識度」の向上を図ること。そのためのツールとして、選挙ポスターやビラ、選挙公報、選挙ハガキ、政見放送、ウェブサイト、そして駅頭等の街頭活動や各種集会などがあり、SNSや動画も、あくまでもその中の一つのツールという位置づけに他ならない。
今回の総選挙でSNSを活用した候補者は約8割。これからの選挙戦は従来型の「地上戦(ドブ板選挙)」とSNSを駆使した「空中戦」の二本立てがますます重要となってくるだろう。
今回の衆院選は55.93%と戦後三番目に低い投票率となった。
今回は、商業施設など利便性の高い場所で投票できる「共通投票所」が、前回(2017年)の約7倍となる11道県・48か所に設けられ、「期日前投票所」も5940か所と、前回比556か所増と過去最多となったが、行政の人員配置や投票箱の管理面等、様々な課題があり、まだまだ広がりに欠けている。
今後は、より「有権者本位」の視点に立ち、コンビニやショッピングセンター、スーパーマーケット、通勤通学の駅構内や専門学校・大学構内等、有権者の利便性を考えた投票所が増えれば、間違いなく投票率は上がるだろう。
また、レントゲン巡回車のように、中山間地や病院、介護施設、駅等を巡回する「移動投票所」の普及も有効と思われる。
このように、「選挙運動」も「投票率向上」も、政党や候補者、行政の視点からではなく、あくまでも有権者本位、有権者の視点による創意工夫がますます求められてくると私は思う。