『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』

政府が避けてきた「死の真相」究明の書

2018年3月号 連載 [BOOK Review]
by 斎藤貴男(ジャーナリスト)

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告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実

告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実

著者/旗手啓介
出版社/講談社(本体1800円+税)

岡山県警の髙田晴行警部補がカンボジアで武装集団の凶弾に倒れ、33歳の若さで亡くなったのは25年前、1993年5月4日のことである。国連PKO(平和維持活動)の文民警察官として、車で移動中の事件だった。日本人の同僚4人と、オランダ海兵隊員5人も重軽傷を負った。

誰に、なぜ襲われたのかはなお不明だ。日本政府は究明や検証のための努力をまったく払ってきていない。しかし私たちは今、事件のおおよそを知ることができる。NHKの取材班が、日本隊の元隊長や隊員たちに長く強いられてきた沈黙を破らせ、精緻な調査を重ねて放映したドキュメンタリーを、こうして一冊にまとめてくれたからである。

当時のカンボジアでは4派による内戦が繰り返されていた。反政府のポル・ポト派、シアヌーク派、ソン・サン派、そしてプノンペン政府。ポト派は史上最悪の大量虐殺で知られる。米CIAがベトナム戦争で北の秘密補給路「ホー・チ・ミン・ルート」を断とうと展開した謀略にも導かれた無惨だった。

ようやく91年にパリ和平協定が結ばれ、「国連カンボジア暫定統治機構」(UNTAC)の旗の下、日本も初めてPKOに参加した。ともあれ人を出して、巨額の資金を拠出しながら国際社会で軽んじられた“湾岸戦争トラウマ”からの脱却を図り、近い将来の急成長が見込めるマーケットへの経済進出という〈大きな果実〉を〈たぐり寄せよう、という意味合いが強かった〉。

当然、憲法9条との整合性が問題視された。それゆえ政府が安全の確保に躍起だった自衛隊とは対照的に、文民警察官たちは危険な一帯に赴かされる羽目になった。水や食糧の手当てもままならない。しかもUNTACは、本来の任務を逸脱した仕事を次々に押し付けてくる。

やがてポト派の停戦違反が激化し、UNTACの、とりわけ日本人が標的にされていった。最初に若いボランティアが殺された。内戦状態に戻り、PKO参加5原則の第一「紛争当事者同士の停戦合意の成立」も完全に崩れてしまったが、政府はそのことを認めない。そして……。

明石康UNTAC元特別代表や、柳井俊二元国際平和協力本部事務局長らの要人も、本書には随所に登場する。彼らの使命感には脱帽するが、現場から遠くなるにつれて、“国際貢献”を甘美な国益と捉えているらしいのが怖い。態勢の立て直しにバンコクに出た警部が、電話で東京の、いかにも官僚な事務局に投げつけた言葉が、問題の本質を物語っていた。

イラク戦争でも、南スーダンPKOでも、日本政府の姿勢は変わっていない。それでいて憲法は改正したいという。近年はアジア屈指の経済成長を遂げているカンボジアには、日系企業の投資が急増中と伝えられる。

著者プロフィール

斎藤貴男

ジャーナリスト

   

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