キラ星の頭脳の行きついた果て

『ランド 世界を支配した研究所』

2009年1月号 連載 [BOOK Review]
by 石

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『ランド 世界を支配した研究所』

ランド 世界を支配した研究所
(著者:アレックス・アベラ/訳者:牧野 洋)


出版社:文藝春秋(税込み2200円)

ランド研究所といえば米軍や米政府に大きな影響力を持つシンクタンクである。

とは知りつつも、どこか穏やかならざる存在といったイメージはあっても、その実態となるとほとんど知られていないのが実情ではないか。

ジャーナリスト兼作家である著者はランド経営陣の了解を取ったうえで資料ファイルを閲覧し、研究者やアナリストにインタビュー、マル秘情報以外は自由に書いてよいとの条件で取材を始めた。いわばランド公認の書なのだが、著者は戦後60年余のランドの軌跡をたどりながら、その業績を客観的に評価し、ときに辛辣な言葉を浴びせかけている。

Research and Development(研究と開発)を略したRANDは、1946年3月、空軍と航空機製造会社が「プロジェクト・ランド」として設立した。対ソ戦をどのように展開し勝利を得るかを、政府や空軍に助言することが当初の設立目的で、最初の研究も大陸間弾道ミサイル開発のための軌道衛星プロジェクトだった。

まもなくNPO法人としてダグラス・エアクラフト社から独立、大学や民間から第一級の頭脳を集め、政府の政策や企業活動、社会生活を規定する多くの理論や提言を発信している。数学者フォン・ノイマンのゲーム理論がそれであり、人間は自分の利益の最大化を求めて行動する合理的存在という経済学者ケネス・アローの合理的選択理論も、システム分析やフェイルセーフ(多重安全装置)もランドで生まれ、アメリカから世界に広まっていった。

核戦略でソ連を抑え込むことがランドの中心課題だから、国家安全保障分野での研究が基礎になってきた。システム分析や合理的選択理論もそうした研究から生み出された。また1950年代には核攻撃後の通信手段の研究から、インターネットの土台となる技術が開発され、70年代には大規模な社会実験で患者の自己負担方式を提言、医療保険を革新している。

多方面にわたるランドの研究に驚くが、米政権に対する食い込み方には目を見張る。

80年代にレーガン大統領が「小さな政府」を目指し、介入主義的な対外政策を採った際、国務次官補、政策担当国防次官など重要なポストを占めていたのはランド出身者だった。また湾岸戦争、イラク戦争なども「ランド同級生」が温めてきた計画が実行された結果という。まさに副題どおり「世界を支配した研究所」だが、ランドの第一級の頭脳が生み出した合理的選択理論に基づくレーガノミックスの行きついた果てが、現在の百年に一度の不況である。彼らが目論んだイラク戦争の現状も言うまでもあるまい。

人間の行動はすべて分類・計測・配分できるという数値至上主義の結果がこれかという問いに、現在のランドはどう答えるだろう。「厳しく自己分析し、反省する文化が消えてしまった」と官僚主義ぶりを批判した著者に対し、ランドは出入り禁止で応じたようだと、日本経済新聞出身の訳者はあとがきで伝えている。

一極支配のアメリカの後退とともに、ランドも陰の主役の座を降りるしかないのか。

著者プロフィール

   

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