子どものために「科学的検証」促す好著 著者:倉澤治雄/評者:小岩井忠道 元共同通信記者
2022年6月号
連載 [BOOK Review]
by 小岩井忠道(元共同通信記者)
mRNAワクチンに代表される新型コロナワクチンに対する日本国内の大方の受け止め方は肯定的といえる。内外の論文に加え報道にも目を光らせている免疫学者の宮坂昌之大阪大学招聘教授は、3月31日、日本記者クラブ主催の記者会見で次のような見解を示している。
「mRNAワクチンには感染予防、伝播予防、重症化予防の3つの働きがある」「単純計算では、ワクチン接種のために死者が増えているとはならない」「ワクチン2回接種は新型コロナ後遺症の抑制に有効」「妊娠時のmRNAワクチン接種は、妊婦と胎児を新型コロナ感染から守り、 新生児も一定期間、コロナに罹りにくくなる」
こうした見方に本書はことごとく疑問を呈している。特に多くの紙面を割いているのが、若年層への接種に対する危惧。昨年7月に米医学誌「ニューイングランドジャーナルオブメディスン」に掲載された「若年層でのワクチンの安全性、免疫原性、有効性」と題する論文に対する批判は、以下のようだ。
12~15歳2000人余りという被験者数は少なすぎる。当時の米国の感染者数が100人当たり1人だから、調査期間中に感染する確率は極めて小さい。心筋炎などの重篤な副反応が現れる確率も極めて小さく、ほぼゼロとなることは治験など行わなくても目に見えている。
日本国内で12歳以上の若年層への接種が承認された昨年6月以降、今年2月7日までにワクチン接種後に亡くなった12~19歳は6人とされている。一方、今年1月までにコロナによる死者とされた12~19歳は3人にとどまり、ワクチン接種後に亡くなった人の方が多い。
こうした疑念や理由を挙げて著者は、健康な子どもたちへ新型コロナワクチン接種を続ける危険性を主張している。ワクチンがわずか1年で承認されたことと、子どもたちが今後生きる長い時間を考えると、ワクチンの中長期の安全性が確認されているとは言いがたい、と。
4月末、今後予定される4回目のワクチン接種を60歳以上と18~59歳の基礎疾患を持つ人々に絞る政府方針が示された。ワクチンに感染予防効果は期待しない決定にみえる。子どもへの接種も推奨されてはいない。
しかし本書が提示する多くの疑問、批判に関する科学的論争は不十分ではないだろうか。本書が科学的検証作業を促すことを評者は強く願う。さらに新型コロナの陰に隠れた形の子宮頸がんワクチンに対する検証も。
日本政府はこの3月まで9年近くもの間、接種効果が高い小学6年生から高校1年生までの女性に対する定期接種を中断していた。科学的根拠に基づく適切な対応だったのだろうか。