『凋落 木村剛と大島健伸』
2011年3月号
連載 [BOOK Review]
by S
破綻した日本振興銀行の木村剛と、SFCG(旧商工ファンド)の大島健伸。この二人の「絶対権力者」の生い立ちから話を始め、彼らが頂点へと上り詰めて一時の成功者となり、後に破滅するまでを辿ったのが本書である。
かたや銀行法違反、かたや民事再生法違反などの罪に問われ、刑事被告人となった二人。著者は今回の一連のスキャンダルを「振興銀・SFCG事件」と呼び、金融市場かつてない特異な事件だったと位置づける。日本での企業スキャンダルは、多数の関係者が関与した意図せざる共同不法行為の結果であることが多いのに対し、今回は、木村と大島という突出した人物がいなければ起こりえない性質の事件だったからだ。
特に、本書で詳細に紹介されている、両者の末期の行動は、まさに「なりふり構わぬ」という形容がふさわしい。
資金繰りに窮したSFCGは、傘下企業にCP(コマーシャルペーパー)を押し込んで資金還流を図ったかと思えば、全貸出先数に迫る約4万の借り手に資金返済を迫る「貸し剥がしDM」を送りつけ、さらにはローン債権を譲渡しまくることで資金調達を図った。同時に大島が実行した資産隠し工作には、そこまでやるかと驚き、あきれるばかりである。
木村の振興銀は、SFCGがローン債権を譲渡する得意先だった。だが振興銀が譲り受けたローン債権のほとんどは、他の信託銀行にすでに譲渡されたものだった。「二重譲渡問題」である。著者はこれを見て、この事件は一大スキャンダルに発展する、という直感を得たという。
譲渡された債権のなかには、さらに、本来なら不良債権に分類されるものまで混じっており、これに気づいた振興銀は、それをバランスシートから外すための「飛ばし」を行った。言うまでもなくそれは、バブル崩壊後に大手銀行が行った不良債権隠しと同じものであり、かつての木村はそれを批判する急先鋒だった。
苦境に立った木村と振興銀は、その後ますます「法律無視の暴走機関車」の様相を強め、最終的には同行に対してペイオフが発動され、木村は銀行法違反(検査忌避)容疑で逮捕された。
逮捕された木村と大島の二人を、常軌を逸した行動へと駆り立てたものは何だったのか。
著者はそれを、徹底した個人益の追及に求める。大島を動かしたのは「金銭欲」、木村の場合は「レピュテーション(評判)」への執着だ。著者の言うように、個人主義が幅を利かせるようになった現代社会では、第2、第3の木村や大島がいつ現れてもおかしくはない。
経済スキャンダルに関する新聞や雑誌の報道は、断片的で扱いが小さいことが多く、よほどの関係者でもなければ、事件の全容をつかむことは難しい。本書は、今回の事件の全容を丁寧に描くだけでなく、経済事件の本質もあぶり出している。
ビジネスがうまくいかなくなってからの経営者のあがきは恐ろしい。それは往々にして、傷口を広げることにしかならない。
ビジネスに携わる多くの人に読んでほしい本である。