『昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実』

動労を寝返らせた「国鉄改革」三人組

2017年5月号 連載 [BOOK Review]
by 屋山太郎(政治評論家)

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昭和解体  国鉄分割・民営化30年目の真実

昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実

著者:牧 久
出版社:講談社(本体2700円+税)

国鉄が分割・民営化されて、今年でちょうど30年が経つ。新聞でも30周年の国鉄記念特集をやっているところが多いが、それほど“大事件”だったのだ。

牧久氏の書いた国鉄本には『昭和解体』の題名が付けられている。これほど時代の変遷を語るにふさわしい題名はない。

民営化を断行したことによって、政治制度も変わり、社会党という最大野党が没落した。不動の官僚制度も政治によって動かせることがわかった。官営企業に群がる2千ものファミリー企業とそれに抱えられた政治家も利権をはぎとられた。その政治家をとっかえひっかえ操縦した中曽根康弘総理も名を残した。

私も改革を担当した臨時行政調査会に参画し、改革の動きについて、表も裏も知っているつもりだったが、牧氏の『昭和解体』を読むと、自分が知っていたのがほんのひと握りの情報だったことに気が付く。牧氏は国鉄第四代総裁の評伝『不屈の春雷 十河信二とその時代』の著書もあり、国鉄に詳しい人という認識はあったが、時代をつかみ捕る能力に秀でた人だ。地を這うような取材力に加えて感嘆するのは、材料を集めて筋書きを組み立てる能力だ。取材力と暗記力だけでは決して面白いものにはならない。「なるほど!」と感嘆させられるのは、筆者が語っている精緻な筋書きだ。

国鉄が赤字経営に陥ったのは使用者と労働者側が馴れ合って、止めどなく膨らむ赤字を補助金で埋めていたからだ。労使とも悪いがとくに悪かったのは動労で、これは機関士ばかりの組合だった。駅員がストを打っても致命的ではないが、動労がストを打つと列車が止まる。

その動労を改革派三人組が裏で口説いていたというのはニュースだ。機関士組合が民営化でいいと、スト路線から抜けたことで社会党は切り札を失ったのである。落ち目になるのは当然で、社会党はほぼ消滅した。

今年99歳を迎える中曽根氏は「社会党を潰したのは私だ」と自慢するが、その原因を仕掛けたのは改革派三人組の人たちだったのだ。国鉄はJR7社に分割されたが、北海道、四国、九州の三島会社の経営基盤が厳しいのは初めからわかっていた。しかし黒字経営のJR東が、未だにJR東労組(革マル派)に牛耳られているのはけしからんと思っていたが、その理由も牧氏の分析で理解できた。

旧国鉄職員は全員が「いわれた会社、部署に行く」と誓い合った。ところが、ドタン場になって革マルの松崎明氏がJR東の役員に「この3人だけ東にとってくれ」と頼み込んだ。いうことをきいた役員は以後、革マルの注文を聞かざるを得なくなるはずだ。JR東で小さな事故が絶えないゆえんだ。それにしても、昭和の病巣は国鉄民営化で相当部分、摘出されたように思う。

著者プロフィール

屋山太郎

政治評論家

   

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