『成年後見制度の闇』

12の実例で「後見被害者」浮き彫り

2018年5月号 連載 [BOOK Review]
by 段勲(ジャーナリスト)

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成年後見制度の闇

成年後見制度の闇

著者/長谷川学・宮内康二
出版社/飛鳥新社(1296円+税)

あと十数年の歳月で、国民の3分の1が65歳以上になる。史上始まって以来の超高齢社会を迎える中、取材の現場で何度か「成年後見制度」に触れたことがあった。

その一つ。特養老人ホームに入居する90歳代の女性が、同制度を利用していた。ろくでもない長男、長女が入れ替わり立ち替わりホームを訪ね、軽い認知症の母親から小遣いをせびっていくのを見かねた施設の責任者が所轄の家庭裁判所に相談。選任された弁護士が派遣された。

母親の面倒も見ず、ただ金を無心する子どもたちの非情な行為に歯止めをかける「成年後見制度」は、そう悪い制度でもないと思われた。ところが別の例を目の当たりにしたのである。

一代で資産を築いた実業家に、4人の子どもがいた。後継者の長男は親父の資産を生かして、事業を拡大。だが、地方で暮らす専業主婦の長女が、父親を「認知症」とする診断書を添えて、資産を弁護士の管理下においた。

資産相続の目減りを案じた長女の悪知恵なのか。こうした利用法もあるのかと思っていた矢先、本書が出版された。著者の一人の長谷川学氏が講談社の「現代ビジネス」に同制度の告発記事を連載していた頃から拝見していたが、あらためて一読すると、問題があまりにも多すぎる制度だと感じる。「認知症の人の財産を守り、生活の質を上げるための制度が、逆に財産の浪費と生活環境の悪化を招いている」と著者らは指摘する。

本書は成年後見制度を利用した(させられた)本人や家族に取材、12の実例から制度の問題点と当事者を苦しめる実態を浮き彫りにしている。例えば、成年後見制度に基づき認知症の母の保佐人になっている子どもに対し、突然家庭裁判所から「母の流動資産が多いので監督人をつける」と通知が届いた。家裁は近年、親族が後見人や保佐人になっているケースに第三者の弁護士などの監督人をつける動きを強めているからだ。このケースで子どもはもともと問題なく真面目に保佐人を務めていた。それなのに、ほとんど何もしない監督人に母の大切な預貯金から年間24万円もの報酬が支払われることになった。

軽い認知症の親と暮らす子どもに虐待の疑いをかけ、行政が本人や家族の意思を無視して後見を申し立てた話もある。この結果、見知らぬ弁護士が親の財産の一切を管理するようになった。勝手に親を施設に入れられ、家族が会えなくなることすらあるという。本書には想像を超える実態とともに、被害に遭わないための対策も示されている。

「行政や職業後見人、家裁の暴走を監視し、後見被害者の声を受け付ける第三者機関を早急に設立すべき」との訴えは重い。

著者プロフィール

段勲

ジャーナリスト

   

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