『ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体』 著者/井伊重之 評者/石川和男

日本を蝕む電力不足への処方箋

2023年1月号 連載 [BOOK Review]
by 石川和男(政策アナリスト)

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『ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体』

『ブラックアウト 迫り来る電力危機の正体』

著者/井伊重之
出版社/ビジネス社(1,600円+税)

“電力不足”などという一昔前の日本では考えられなかったことが、今の日本を知らず知らずのうちに蝕んでいる。その処方箋を誤ると、今後当面はこの状態から抜け出せないだろう。

遠因は、2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故。その事故処理は、今後もしばらく続く。

それが直接的に電力不足を起こしているわけではない。事故後からのエネルギー政策を巡る一連の政治動向が、今の電力不足を招いている。大きくは三つある。

第一に、3.11事故直後から、稼働実績のある既設の原子力発電所の再稼働が、政治的に許されなくなったこと。今では西日本の一部の原発は再稼働が許されているが、それ以外の、特に東日本の全ての原発は、事故から10年以上経った今も、事故とは全く無関係なのに、強制的に停止させられたままだ。

第二に、3.11事故の翌年から再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まったこと。超高値の買取価格が太陽光発電の異常かつ過剰な導入を誘発した。“再エネ最優先”だの“脱炭素”だのといった夢想的な風潮も手伝ってか、火力発電所の利用率が低下した。必然的に、火力発電の採算性は悪化し始めた。

第三に、3.11事故によって電力業界全体の体力が毀損したにもかかわらず、“電力システム改革”という美名の下で、電力小売全面自由化・発送電分離が行われ、最悪なことに大型電源の投資回収を長期的に保証する「総括原価方式」が廃止された。

今の日本は、この「三重苦」の中に自らを置いている。日本の政治、即ち日本国民が、自らこうした状況を選んだと言える。

22年3月に始まったロシアのウクライナ侵攻により生じた化石燃料の世界的な高騰は、日本の火力発電にとってはかなりの痛手となっている。

しかし、より本質的には、その前から日本を覆っている「三重苦」により、今の日本は、大規模・安価・安定電源である原子力・火力の能力が毀損している状態。我々は、この悪しき現況から脱しなければならない。

そのためにはどのような方策が必要なのだろうか?

本書は、そのための処方箋を詳らかに示している。

“脱原発”、“脱炭素”、“再エネ主力化”、“全面自由化”、“電力システム改革”……どれも耳触りの好い言葉に聞こえるのだろう。だが実際には、どれも日本の経済力・競争力を殺ぐものばかりだ。

こうした言葉の呪縛から解かれ、現実に眼を向けることがいかに大事なことか、本書が改めて気づかせてくれるはずだ。

著者プロフィール

石川和男

政策アナリスト

   

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